ペルチェ素子霧箱の製作

gotcha@ぴっちぶれんど

 

↓の動画の解説文書です。


霧箱には、膨張霧箱と拡散霧箱の2種類があります。膨張霧箱は簡単に製作できますが、一瞬しか観察できないので面白みがありません。そこで、拡散霧箱の製作を目指します。

拡散霧箱の実験では、エタノールなどの蒸気を過冷却状態になるまで冷やします。そこを荷電粒子が通ると、蒸気の準安定状態が崩れて液化し、霧の筋が現れるというわけです。氷点よりもかなり低い温度の環境を必要とするので、ドライアイスや液体窒素を準備しなければならないのが欠点です。今回はそれらの代わりにペルチェ素子を2枚使い、過冷却の温度を作りだします。

環境により異なると思いますが、底面の温度が-20度程度でなんとか霧の筋が見えるようです。-30度まで冷やせれば、ほぼ確実に成功します。

 

準備するもの

ペルチェ素子 Tec1-12708

秋葉原の秋月電子で購入できます。これを2枚重ねて使用し、上の素子には5V、下の素子には12Vをかけるのが良いようです。ただし上手く行かないことがあるので、確実に実験を成功させたい場合には、初めからペルチェ素子が2枚重なっている19012-5L31-06CQQの使用をお勧めします。しかしながら、この素子はネットでも海外の一カ所でしか販売されておらず、価格も送料も高いのが悩みどころです。

ATX電源

ペルチェ素子とCPUファンの電力を、ATX電源でまかないます。ペルチェ素子の消費電力を計算して、12V(と5V)の出力がそれを上回っていれば良いでしょう。

CPUクーラー

ペルチェ素子の、発熱側の熱を逃がすのに必要です。今は大半がヒートパイプ方式だと思います。ヒートパイプは、上下逆さまでは原理的に機能を果たさないはずですが、それでも上手く行っています。毛細管現象を利用したヒートパイプならば天地が逆でも働くそうですが、最近はそういうものが使われているのでしょうか。

HDD電源延長ケーブル

ATX電源から12V(と5V)を取り出すのに使います。線をカットして被覆を剥ぎ、ペルチェ素子につなぎます。

ATX電源検証ボード KM-02B

ATX電源を起動させるために使います。これが無くても電源信号の端子をショートさせれば良いのですが、ミスをするといろいろと面倒です。また、CPUファンの端子が付いているので便利です。

容器

霧箱を観察する容器です。底の材質が重要で、できるだけ薄く熱伝導が「悪い」ものを選びましょう。

拡散霧箱では、容器内に対流をおこし、低温部にエタノールの蒸気を絶え間なく当て続けて過冷却状態を再生させることが重要です。このためには、底に温度差が必要なわけです。底の熱伝導が良すぎると、温度が均一化して対流が発生せず、なかなか成功しません。底を切り抜いてペルチェ素子が直接空気に触れるように工作すると、この心配はないと思いますが。

また、軌跡を見やすくするために底を黒く塗ります。ダイソーに、底が真っ黒でプラスチック製の理想的なディスプレイケースが売られています。

エチルアルコール

アルコール系ならば何でも良いと思いますが、入手が容易で扱いやすい「手ピカジェル」が最適です。

ライト

真横から強い光を当てないと軌跡が見えません。卓上ライトや懐中電灯で構いませんが、一点から光が出るようなものが良いようです。

アルファ線源

これが一番の問題です……。以前はランタンのマントルなどがアルファ線を発していたのですが、最近の製品では放射性物質が使われていません。それでも、

 ・ウランやトリウム、ラジウムなどの鉱石を入手する。(入手先:ヤフオク、ebay、岐阜の某山地)

 ・溶接に使うトリウム棒などを使用する。

などの方法があります。

 

実験の手順

1 CPUクーラーの準備

逆さまにしてグリスを塗ります。自作PCを組み立てる場合と異なり、たっぷりと塗ります。安物のグリスで構いません。

2 電源の準備

電源検証ボードに、ATX電源・CPUファンをつなぎます。

3 ペルチェ素子の取り付け

CPUクーラーの上に、まずTec1-127081枚、黒い線が左に来るように取り付けます。黒い線をHDD電源延長ケーブルの黒い線(GND)と、赤い線をHDD電源延長ケーブルの黄色い線(12V)と接続し、ペルチェ素子の上面温度を赤外線放射計で測りながら電源を入れ、温度が下がるのを確認したら電源を切ります。(指で測っても良いのですが、十分に気を付けてください。)

万が一温度が上がり始めたら、直ちに電源を切ります。配線を間違えているはずです。極性を間違えたまま通電し続けると素子が焼けてしまうので、この作業は慎重に進める必要があります。

ペルチェ素子に19012-5L31-06CQQを選択した時も、同じく12Vのラインに接続します。この場合は5Vのラインを使用しないので、次項は必要有りません。

4 ペルチェ素子(2枚目)の取り付け

グリスを塗って、Tec1-127082枚目を取り付けます。素子の黒い線をHDD電源延長ケーブルの黒い線(GND)と、赤い線をHDD電源延長ケーブルの赤い線(5V)と接続し、前項と同じように通電して温度を確かめます。これで-20度を達成できていれば良いのですが。

5 容器の取り付け

ペルチェ素子の上にグリスを塗ってケースを設置し、底面中央にアルファ線源を置きます。次にケース内をアルコールの蒸気で満たします。このためには、スポンジなどにアルコールを含ませ、ケース上部に取り付けて数分間待つのが良いでしょう。アルコールが蒸発する部分と冷却する部分にも、温度差が必要となります。

6 照明の調整

真横、具体的には容器底面の上側がぎりぎり陰にならない位置からライトを当てます。角度がシビアなので、現象をはっきりと見るためには通電後に調整が必要になるでしょう。

7 通電

通電してからおよそ1分間経つと、底面が冷えてアルコールが過冷却・過飽和状態になり、荷電粒子の軌跡が見え始めます。ペルチェ素子がCPUクーラーからずれないよう、注意してください。

本当は、高電圧電源や静電気を利用して、雑イオンを取り除くともっと良く観察できるのですが、アルコールを使っているのでやめた方が良いかと思います。

 

ニコニコ動画に投稿した動画について

準備段階の写真はPanasonic LUMIX GX1で、実験の動画はiPhone 4Sで撮影しています。(マクロレンズを持っていないので……)Sony Vegas Platinum 9.0で編集し無圧縮AVIとして出力、TMPGEnc 4.0 XPressmp4に変換しました。

 

BGMは、煉獄庭園さんからお借りいたしました。毎回お世話になっています。