はじめに謝っておきますが、団地とは全く関係無い話です。すみません。
今週木曜日(1/19)に『団地団 ~ベランダから見渡す映画論~』という本が発売されます。ロフトプラスワンで開かれていたイベントを書籍化したものですが、イベントには初回を除いて毎回参加していたので、本の方もぜひ購入しようと思っています。
おそらく本にも掲載されている話で、イベントの3回目ではアニメ映画の『劇場版デジモン・アドベンチャー』が取り上げられました。団地を舞台にしたアニメの代表作ということで、これがピックアップされるのは当然の流れでした。
この映画では、主人公の少年とモンスターがコミュニケーションを取る手段として、小さな笛を使います。この設定について、団地イベントの出演者である脚本家の佐藤大さんが「団地とは関係ないことだけど」と語りだしたのが興味深い話でした。これは、人類がデジタルのモンスターに初めてコンタクトした場面である。同時にこのシーンは、人類が初めてクラッキングに成功したキャプテンクランチの事件を模している、というのです。今回はこの話を取り上げてみます。
キャプテンクランチ事件とはどのようなものなのか。まず、70年代のアメリカにおける長距離電話事情を解説しなければなりません。長距離電話網の電話局間通信では、音声信号以外にも制御信号を交換する必要があります。回線を制御したり、空き状況などの情報をやりとりするわけです。当時のアメリカでは、音声信号とこの制御信号が、共用された同じ線を流れていました。そのため、一般家庭の電話回線から制御信号を送信できれば、長距離回線網を自由自在にコントロールできることになります。
そしてジョン・T・ドレイパーという人物が、あるタイミングで一般回線に制御信号を発信するとそれ以上課金が発生しないことを発見しました。ほぼ無料で長距離電話をかけることに成功したわけです。回線がつながったままなのに切れたと、電話局が解釈するのが原因でした。これが人類史上初のクラッキング事件です。その後、電話会社は通話用の回線と制御用の回線を分離し、このようなクラッキングが発生しにくいように作り替えました。現在のデジタル回線では再び回線を共用する方向に戻っていると思われますが、同じような方法ではクラッキングは不可能でしょう。
では、その制御信号とはどのようなものだったのか。アナログ回線で送る信号なので、要するに『音』です。いろいろな種類の音が必要で、そのうちの一つに、通話が終了したことを伝える信号として2600Hzの音が使われていました。一方、ジョン・T・ドレイパーが電話局を欺くために用いたのは、キャプテンクランチというお菓子に付属していた笛です。この笛がちょうど2600Hzの音を出していたというわけです。
この事件の後、2600Hzという周波数は、クラッカーの間で象徴的な数字として知れわたることになります。エリック・ゴードン・コールリーはこの事件を参考にして、自身が発刊する雑誌にそのまま『2600』という名前を付けました。この雑誌は、現在でもアンダーグラウンド的な雑誌として発行が続いています。
さて佐藤大さんのおっしゃるとおり、デジモンの映画は本当にキャプテンクランチの事件を本当に取り入れたのか。もしそうならば、少年が吹く笛として製作者は当然2600Hzの音が出るものを用意したのではないかと思います。ですから、映画に出てくる笛の音を分析するとこの説が正しいかどうかがわかるのではないか、というのがこの記事の趣旨です。
では、早速分析結果のソノグラフをご覧に入れたいと思います。これのためにDVDを買いました。
どうでしょう。微妙なところですが……ほぼ2600Hzと言って良いのではないかと思います。ピークは2600Hzよりも少し高い気がしますが、おそらく当時の機器ならば、この音でも誤動作したのではないかと思います。そういうわけで説が裏付けられたということになります。
実は、ここまで読んでもらってもうしわけない限りですが……、この話にはオチがあります。佐藤大さんが確認したところ、映画で笛を用いたのは偶々だったということでした。従って、笛の音が2600Hzだったのも偶然だという結論になります。残念。
それでも、もう一度調べたらやはり意図的だったというのであれば面白いのですが。むしろ今からでもそういうことにしませんか。関係者の方々。
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