「最後の歯車式計算機クルタ」をお買い上げいただいた方へ

 全く宣伝等を行っていませんでしたが、表題の本の第2刷をコミケC82にて販売しておりました。今回も多くの方に来ていただき、本当にありがとうございます。大部数を刷ったつもりでしたが、やはり売り切れてしまいました。買えなかった方には本当に申し訳ありません。今後また販売の機会があるかどうかは、全くの未定です。なお、隣のブースの『発笑探検隊』で出していたクルタ計算機のマニュアルの翻訳にも、多少協力させていただきました。こちらの本はC83で増刷される見込みです。
 「最後の歯車式計算機クルタ」に関して、一つだけ補足があります。実は第2刷で修正しようと思っていましたが、忘れていました。P59上段最後の段落です。

オドネル社の計算機は操作が少し難しい。まず数字の入力では、小さな釘を何本も操作しなければならない。機械は大きいのに、釘の間隔はこのクルタの入力部分よりも狭く、その釘が回転したり無くなったりするので合わせにくい。

 この『釘が回転したり無くなったりする』の意味が分かりにくいと思いますので解説します。


 据置型の機械式計算機は、クランクを回した時の動作によって大きく2種類に分類できます。
1 置数ノブがクランクと一緒に回転するもの(参考動画
2 置数ノブが回転しないもの
機械式計算機の多くは、歯が出たり入ったりする『出入り歯車』という歯車を使用していて、そういった計算機の大半は1に属します。これらのタイプは置数ノブが回転するのでクランクを動かしている時は数字を読めず、またクランクの遊びが原因でノブの位置が合わせにくくもあり、要するに使いにくいわけです。日本で普及したタイガー計算機を見ると、初期こそ出入り歯車を使っていましたが、第3期以降の製品は扇形歯車を採用し2のタイプとなりました(参考文献)。段付き歯車を使って2を実現したメーカーもありました。また出入り歯車を使用していても、ワルサー社などの製品はタイプ2でした。
 ある計算機が1と2どちらのタイプに属するかは、回してみなくても写真を見ただけで簡単にわかります。1のタイプは置数ノブが裏側まで回る必要があるので、ノブが短い作りになっています。この短さは、当然使い勝手に影響します。2のタイプの計算機ではノブを短くする理由がないので、使いやすいようにノブには長い取っ手が採用されています。
 話は本に戻って、オドネル社の計算機が『釘が回転したり無くなったりする』とは、要するに1のタイプだということです。クルタ計算機は段付き歯車を使用していて、2のタイプです。ヘルツシュタルク氏は、このタイプの違いによる優位性を強調したかったわけです。この辺りを把握せずに翻訳してしまい、少なくとも釘が『無くなったりする』というのはかなり微妙な表現です。これは釘が裏側に回ってしまうことを意味しているので、もし3刷目を出すことがあれば、修正したいと思います。
 日本では『タイガー計算機』という単語が機械式計算機の代名詞のように使われていますが、欧米でそれに相当するのがブルンスビガ計算機です。ブルンスビガ社はオドネル社から特許を購入し機構を受け継いだので、内部には出入り歯車が使われています。当然タイプ1です。日本ではタイプ2のタイガー計算機が普及したわけで、この点に関しては日本のユーザは恵まれていたと言えるでしょう。

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