モンティー・ホール問題をMathematicaで解く

Mathematicaには、Ver8.0頃から強力な確率・統計計算機能が搭載されています。しかし、あまり利用されているという話を聞きません。そこで、とある確率上の難問を取り上げつつ、この機能を使ってみたいと思います。

モンティー・ホール問題とは

数学の分野で、定期的に話題になる確率の問題に、「モンティー・ホール問題」があります。

テレビ番組で、司会者のM氏(モンティー・ホール氏)が3つの扉を提示する。出場者は、そのうち1つだけを開けて良い。いずれかの扉の裏側に景品があり、当たった場合はそれを貰える。

出場者が左の扉を選んだところ、M氏は真ん中の扉を開け、そこに景品がないことを示した。出場者は、選んだ扉を変更すべきか否か。


私の解答は「変えた方が良い」です。本やWebページなどで解説されているものを見ても、大半が同じ結論ではないかと思います。が、微妙にずれた意味での「変えた方が良い」です。

なぜモンティー・ホール問題は難しいのか

「変えた方が良い」派と「変えなくても良い」派の代表的な考え方は、次のようなものではないかと思います。

解1「変えた方が良い」

M氏の行為の結果に関わらず、出場者が選んだ扉が当たりである確率は、1/3のままで変わらないはずである。従って、真ん中の扉が外れと分かった今、右の扉が当たりである確率は2/3となり、選択を変えた方が良い。

 解2「変えなくても良い」

出場者が外部から得た情報は、「真ん中の扉が外れであること」だけである。従って、左と右の扉が当たりである確率は同等であり、選択を変える意味はない。

解説書などでは、ほとんどが解1を正解としているようです。では解2は完全な間違いかと言えば、そうとも言い切れないように思います。場合によっては、解2が正解になることもありそうです。

この問題が難しいのは、条件付き確率という日常であまり使わない考え方が原因だと言われます。しかし、問題をよりわかりにくくしているのは、問題そのものが曖昧に記述されていることでしょう。

Mathematicaで解く

問題について、2通りの解釈があります。それぞれについて、できるだけ曖昧さを排した問題に記述し直し、Mathematicaで解いてみます。

解釈A

まずは、一つ目の解釈に沿った問題文の書き直しです。

1,2,3という番号が付いている3つの扉があり、そのいずれかが等しい確率で当たり(x番)である。出場者は1番の扉を選んだ。M氏はどの扉が当たりかを知っていて、それが1番の扉である場合は、2番または3番の扉のうち1つをランダムに選び(y番)開ける。1番の扉が外れである場合は、1番でも当たりでもない扉(5-x番)を開ける。M氏が1番の扉を開けたとき、扉k(k=1,2,3)が当たりである確率を求めよ。

ここまで明確に書くと、条件付き確率の式を利用して手で解いた方が早いのですが、あえてMathematicaで解いてみます。上の文章をさらに抽象化します。

xを{1,2,3}からの一様乱数、yを{2,3}からの一様乱数とする。x=1ならばyの値が、それ以外ならば5-xを計算した結果が、2になった。その条件下でx=kである確率を求めよ。

(入力文字列)
Probability[
  x == k \[Conditioned] 
   If[x == 1, y, 5 - x] == 2, {x \[Distributed] 
    DiscreteUniformDistribution[{1, 3}], 
   y \[Distributed] DiscreteUniformDistribution[{2, 3}]}] // Simplify

\[Conditioned] は「ESC」dist「ESC」、\[Distributed]は「ESC」cond「ESC」と入力しても構いません。Probability関数の使い方は、MathematicaのHelpが参考になります。実行結果はこうです。
mon1
Trueは「それ以外」ですね。1番が当たりの確率は1/3、3番が当たりの確率は2/3ということで、選択を変えた方が得という結果になりました。

解釈B

続いて2番目の解釈。

1,2,3という番号が付いている3つの扉があり、そのいずれかが等しい確率で当たり(x番)である。出場者は1番の扉を選んだ。M氏も、どの扉が当たりかを知らず、出場者が選ばなかった2番または3番の扉のどちらかをランダムに選び(y番)開ける。M氏が2番の扉を開けたところ、それは外れだった。扉k(k=1,2,3)が当たりである確率を求めよ。

こちらに言及した文献は、少ないかと思います。それは、こう解釈してしまうとクイズ番組が成り立たないからでしょう。たまたまM氏が外れの扉を選んだから良いものの、もし当たりの扉を開いたら番組が台無しになります。そういったソーシャルな背景があるので、あまり考察されないのですが、純粋に数学の問題として見た場合は、両方とも考えるべきでしょう。

解釈Aと同じように、Mathematicaで計算してみます。

xを{1,2,3}からの一様乱数、yを{2,3}からの一様乱数とする。y=2でそれがxと等しくなかったという条件下で、x=kである確率を求めよ。

(入力文字列)
Probability[
  x == k \[Conditioned] 
   y == 2 && x != y, {x \[Distributed] 
    DiscreteUniformDistribution[{1, 3}], 
   y \[Distributed] DiscreteUniformDistribution[{2, 3}]}] // Simplify

この結果です。
mon2

この場合は、1番、3番とも当たりの確率が1/2ということで、どちらでも良いという結果になりました。

結局、どちらを選択すべきか

解釈A、解釈Bは、そのまま解1、解2に相当します。つまり、問題文の解釈によって結論が違うわけです。では、なぜ冒頭で「変えた方が良い」と書いたのか。それは、数学というよりはメタな視点での理由によります。

  • 解釈Bが正しい場合、クイズ番組がクイズ番組として成り立たない。従って、解釈Aが正しい可能性が高い。
  • たとえ解釈Bが正しい場合でも、選択を変えて当選確率が減ることはない。一方で解釈Aが正しい場合は、選択を変えるべきである。従って、総合的に考えると選択を変えた方が良い。

モンティ・ホール問題は、意外に一筋縄では行かないように感じます。他に解釈C,解釈Dもあるかもしれません。もし「選択を変えた方が良い(変えない方が良い)のは当たり前」と思い込んだら、一歩引いて問題の理解から始めるべきでしょう。

Mathematicaのエヴァンジェリスト(自称)としては、確率・統計機能が意外に使えるのではないかという認識が広がると良いなあと思います。

1 個のコメント

    • a on 2017年2月7日 at 7:48 PM
    • 返信

    M氏は当たりを知っていて、かつ、毎回扉を一つ開けるとは限らない場合はどう考えられますか?
    つまりM氏は、出場者の選択を確認してから開けるか開けないかを選ぶということです。

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